日本酒伝道師講座、なんとか修了!

 

こんにちは。

 

知人に誘われて去年の7月から 月に一回、「日本酒伝道師養成講座」というのに参加して、日本酒の歴史、醸造法、味わい方などを勉強しておりました。

 

先日の3月末が締め切りで課題エッセイを課されまして、下記を提出しました。

書き直しを命じられたり、不受領の連絡は来ていませんので、何とか合格したものと想像しているところです。また4月の講義最終回には学科テストがありましたが、これも何とか修了ラインに滑り込めたようです。

 

 さて課題エッセイの形式は自由ですが、お題は、

”「日本酒ができる工程(一部でもすべてでも)」を自分の言葉で物語にする ”

というものです。

 

私は、”酛づくり(酒母づくり)” に不可欠な「乳酸菌」を主人公にして、夏目漱石の『吾輩は猫である』風に書いて出してみました。

 

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卒業課題小論文:『活躍する乳酸菌』                   

 

 吾輩は乳酸菌である。古くからある酒蔵に棲みついとるんじゃが、半切桶などの木製器具が一番棲み心地がいいぞ。我々乳酸菌の仲間は400種とも言われているが、日本酒に関係するのは吾輩「ロイコノストック菌」と弟分の「ラクバチルス菌」じゃ。

 日本酒造りと言えば、麹菌や酵母ばかりチヤホヤされるが、吾輩のチカラがなければ良い酒はハナから作れまいぞ。良い酒とは、蔵から出た後も、固有の味わいを適度な期間しっかり保てる酒じゃ。それを品質と言う。日本酒の「品質」は吾輩の働きなしでは作れまい。それだけじゃない。吾輩は、「味」にも深く関わっておるぞ。今日は この二つをしっかりと教えて進ぜよう。

 

 先ず品質じゃ。日本酒の品質保証の二本柱は、①本来の風味を台無しにする雑味を含んでいないこと、②風味を保証できる適度な賞味期間を保てること、この二点に尽きる。醸造の過程で雑菌が入り込んでくると、上等な品質は保てない。その理由は、①雑菌のせいで発酵が正しく進まない、②有害な細菌が繁殖して食中毒の原因になったりする、③雑菌は風味を損ねる雑味を作り出す、からじゃ。吾輩は、酛つくりの過程でタンクに取り込まれ、悪い雑菌を退治して強い酵母が増殖できる環境を作り、酒の大元となる酒母を育てる重要な役目を担っているのじゃ。「わからない」って?もう少しかみ砕いて解説しよう。

 

 酒母づくりは、蒸米、水、米麹に酵母菌を加え、2~4週間ほどかけて強い優秀な酵母を大量に培養する工程じゃ。しかし、酵母菌は弱い微生物であるため不要な雑菌が居ると負けてしまう。酒造りでは雑菌から酵母を守ってしっかり培養することが最も肝心で、そのために必要となるのが吾輩「乳酸菌」じゃ。雑菌は酸に弱いので、吾輩の出す乳酸で死んでしまうんじゃ。偉大な守護神というワケじゃ。「酵母も死んでしまわないか?」って? 大丈夫、酵母は酸に強いんじゃ。

 一応補足じゃが、酒母づくりの過程で何らかの方法で「殺菌用の酸」があれば良いのじゃが、酒蔵に棲みつく乳酸菌である吾輩を取り込んで発酵させてできた「乳酸」を活用するのが「生酛づくり」や「山廃づくり」と呼ばれる製造法じゃ。片や、人工的な醸造用の乳酸を、酒母づくりの最初に人為的にタンクに混ぜるのが「速醸系」と呼ばれる方法じゃ。覚えておくがいい。

 

 次に、吾輩が「味」にどう関わっているかを教えて進ぜよう。日本酒は、すっきりしたキレの中に複雑な風味があるのが魅力じゃな。その味わいを簡潔に分解すれば、「吟醸香」、「旨味」、「酸味」の三つのキーワードに集約されるじゃろう。これらの要素は、誰の働きでできるんじゃ?

 まず旨味じゃが、旨味の成分であるアミノ酸は、麹のもつ酵素が米に含まれるタンパク質を分解する過程で多く作られる。主に麹君の手柄じゃ。しかし吾輩も相当貢献しておるらしいぞ。最近の研究によると、吾輩が発酵して乳酸を作り出す過程でD-アミノ酸を生成して、日本酒の醸し出す「ボリューム感」や生酛特有の「コク」、「押し味」と呼ばれる余韻などを出すのに一役買っているらしいぞ。

 次に「吟醸香」じゃが、吟醸香は 吾輩ではなく酵母君の作品じゃ! そこは譲ろう。

 最後の「酸味」じゃが、日本酒の世界では酸味は凡人が想像する以上に重要で、吾輩が発酵することで生み出した「乳酸」のチカラが大きいんじゃ。酸味が無ければ 酒も単に甘辛いエチルアルコールになってしまうからな。しかもその乳酸の酸味は、単なる酸っぱさではなく、まろやかな酸味なんじゃ。言い換えれば、酒の味に 爽やかさ・ふくよかさを与える根本的に重要な成分になっておって、伝統製法の日本酒の味の土台であり骨組みとなっているんじゃ。ようやく吾輩の偉大さが伝わったかな?

 

 さて偉大な吾輩もいよいよ役目を終える時が来た。乳酸を出して雑菌を討ち果たして強い酵母の増殖を成し遂げたら、もはや役目は終わりじゃ。もろみが熟成して「平行複発酵」でアルコールが出来ると吾輩は死ぬ。しぶとい吾輩もアルコール消毒されてしまうからな。酒造りで大事な役目を果たしているのに、アルコールに弱いとはお笑い草だな。たまにほんの少し乳酸菌が生き長らえることがあるらしいが、未練を残せば蔵から出て世にデビューする新酒の花道の妨げとなる。もはや吾輩でさえも他の雑菌と同様、腐敗の元となるからな。老兵は去り行くのみ。「火入れ」によって潔く散るんじゃ!

 さらばじゃ! 新酒の門出に幸あれ!